はじめに
桜の花が咲き始め、暖かい日差しに誘われて「今年こそは体を動かそう」と決意する。
冬の間は寒さを言い訳に運動から遠ざかっていたけれど、春の訪れとともに心機一転、ジョギングやウォーキングを始める。
しかし数日後、足首に違和感が。
そして気がつくと、歩くたびに痛みが走るようになってしまった。
もしかすると、あなたもそんな経験をされて、この記事をお読みになっているのかもしれませんね。
京都市北区で治療院を営む森洋人と申します。
治療家として15年間で8万人以上の患者さまを治療させていただく中で、春になると足首の痛みを訴える方が増えます。
「久しぶりに走ったら足首が痛くなった」「ウォーキングを始めたら足首が腫れてきた」「せっかくやる気になったのに、また運動を諦めなければならないのか」といったお声を本当によくお聞きします。
私自身も高校時代に野球で肩を痛めた経験があり、運動ができない辛さを身をもって知っています。
だからこそ、せっかく芽生えた運動への意欲を、足首の痛みで諦めて欲しくないのです。
実は春先に運動を始めた時の足首の痛みには、明確な理由があります。
冬の間の運動不足、体の硬さ、急に運動を開始したことなど、複数の要因が重なって足首への負担を増大させているのです。
しかし、正しい知識と適切な準備を行うことで、これらの痛みは十分に予防できます。
今回は春から安全に運動を始めるための具体的な方法を、治療の現場で培った知識をもとに詳しくお伝えいたします。
春になって運動を始めると足首が痛くなる本当の理由を解説

春先に運動を始めた時の足首の痛みは、単なる使いすぎではなく、冬の間に起きた体の変化と運動を始めたことが組み合わさって起こっている可能性が高いです。
このメカニズムを理解することが、効果的な予防の第一歩となります。
まず気温の影響について説明します。冬の寒い時期から春への移行期は、朝晩の気温がまだ低く、筋肉や腱が十分に温まっていない状態です。
筋肉の温度が低いと、柔軟性が大幅に低下します。
研究によれば、筋肉の温度が1度下がると、柔軟性は約10パーセント低下すると言われています。
足首周りには、アキレス腱(かかとの後ろの太い腱)、前脛骨筋(すねの前側の筋肉)、腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)、ヒラメ筋(ふくらはぎの深層の筋肉)など、多くの筋肉と腱が集まっています。
これらが硬い状態で運動を始めると、着地時の衝撃を十分に吸収できず、足首の靭帯や腱に過度なストレスがかかります。
冬の間の運動不足も大きな要因です。

3ヶ月から4ヶ月の運動不足の期間があると、足首周りの筋力は約20パーセントから30パーセント低下すると言われています。
特に足首を安定させる役割を持つ腓骨筋(足首の外側の筋肉)や後脛骨筋(足首の内側の筋肉)は、使わないと急速に弱まる性質があります。
これらの筋肉が弱いと、着地時や方向を転換する時に足首が不安定になり、捻挫のリスクが高まります。
さらに運動不足により、足首の関節の動く範囲も狭くなっています。
本来、足首は上下に約40度から50度動くべきですが、冬の間に動かさないでいると、この可動域が20度から30度程度まで制限されることがあります。
急激な運動の開始も問題です。

多くの方が「春になったから」という理由で、準備運動もそこそこに、いきなり以前と同じペースや距離で運動を始めてしまいます。
体が冬モードから切り替わっていない状態で、急に負荷をかけると、足首には想定以上の負担がかかります。
例えば、ジョギング中の着地では、体重の2倍から3倍の力が足首にかかります。
体重60キログラムの方なら、120キログラムから180キログラムもの力が一歩ごとに足首にかかる計算になります。
この負荷に耐えられるだけの筋力と柔軟性がない状態で運動を続けると、足首の靭帯である前距腓靭帯(足首の外側の靭帯)や踵腓靭帯(かかとと外くるぶしをつなぐ靭帯)が損傷しやすくなります。
路面の状態も見落とせません。

冬の間に固まった土や、凍結と融解を繰り返した舗装路面は、表面が不均一になっていることがあります。
このような路面でのランニングやウォーキングは、足首に予測できない方向への力がかかり、捻挫のリスクを高めます。
また、冬の間に履いていた厚手の靴から、春用の軽い運動靴に履き替えることで、足首へのサポートが急に減少することも影響しています。
冬の運動不足が足首の柔軟性と筋力を低下させるメカニズム

冬の間の運動不足が足首に与える影響は、多くの方が想像する以上に深刻です。
体の中でどのような変化が起きているのかを知っておくことで、春に運動を始めた時に必要な準備が分ります。
まず筋力の低下メカニズムについて説明します。
筋肉は「使わなければ衰える」という原則があり、これを「廃用性筋萎縮」と呼びます。
運動をしない期間が続くと、筋繊維が細くなり、筋肉の体積が減少します。
特に足首周りの小さな筋肉は、大きな筋肉に比べて萎縮が早く進みます。
前脛骨筋(すねの前側の筋肉)は、つま先を上げる動作を担当していますが、この筋肉が弱ると着地時につま先が十分に上がらず、つまずきやすくなります。
また、腓骨筋(足首の外側の筋肉)は足首が内側に倒れるのを防ぐ重要な役割を果たしていますが、この筋肉が弱ると内反捻挫(足首が内側に捻れる怪我)のリスクが高まります。
柔軟性の低下も見逃せません。

冬の間、暖かい室内で過ごす時間が長くなると、足首を大きく動かす機会が減ります。
関節を動かさないでいると、関節を包む関節包(関節を包む袋状の組織)や靭帯が硬くなります。
これは「拘縮」と呼ばれる状態で、関節の動く範囲が制限されます。
特にアキレス腱(かかとの後ろの太い腱)は、冬の間に短縮しやすく、硬くなったアキレス腱は着地時の衝撃を吸収できず、足首や膝への負担を増大させます。
医学的な研究によれば、3ヶ月の不活動で足首の可動域は平均で15度から20度減少すると報告されています。
血流の低下も重要な要因です。

運動をしないと、筋肉への血流が減少し、筋肉に十分な酸素や栄養が届きにくくなります。
血流が悪化すると、筋肉の代謝が低下し、疲労物質が溜まりやすくなります。
また、腱や靭帯への血流も減少するため、これらの組織の修復能力が低下します。
冬の寒さによる血管の収縮も相まって、足首周りの組織は栄養不足の状態になっています。
神経と筋肉の協調性の低下も見落とせません。

運動をしないと、脳から筋肉への神経伝達がスムーズに行われなくなります。
これは「神経筋協調性の低下」と呼ばれ、とっさの動きに対する反応が遅れます。
例えば、不整地で足を踏み外した時、通常なら瞬時に足首周りの筋肉が反応して姿勢を立て直しますが、神経と筋肉の協調性が低下していると、この反応が遅れ、捻挫してしまうのです。
研究によれば、8週間の不活動で神経と筋肉の協調性は約30パーセント低下すると報告されています。
足首を守るための正しいウォーミングアップとアフターケア

春から安全に運動を始めるためには、適切なウォーミングアップとアフターケアが欠かせません。
私が患者さまにお伝えしている、足首を守るための具体的な方法をご紹介いたします。
運動前のウォーミングアップ
まず運動を始める前に、足首周りの血流を改善し、筋肉の温度を上げることが重要です。
「足首回し」から始めましょう。

椅子に座るか片足立ちになり、足首をゆっくりと大きく回します。
時計回り10回、反時計回り10回を左右それぞれ行います。
この動作により、足首の関節液が循環し、関節の動きが滑らかになります。
次に「つま先上げ下げ」を行います。

立った状態でかかとを地面につけたまま、つま先を上げ下げします。
これを20回繰り返すことで、前脛骨筋(すねの前側の筋肉)とアキレス腱(かかとの後ろの太い腱)が温まります。
「動的ストレッチ」も効果的です。

壁に手をついて体を支え、片足を前後に振ります。
膝を軽く曲げながら、リズミカルに20回振りましょう。
この動作により、ふくらはぎの筋肉である腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)とヒラメ筋(ふくらはぎの深層の筋肉)が伸び、血流が改善されます。
さらに「足首の八の字運動」を取り入れます。

片足を浮かせて、つま先で空中に八の字を描きます。
左右各10回行うことで、足首のあらゆる方向への動きを準備できます。
運動開始は段階的に行うことが大切です。
いきなり全力で走るのではなく、最初の5分から10分はウォーキングから始め、徐々にペースを上げていきます。
これにより、足首周りの筋肉と腱が徐々に負荷に適応できます。
春の運動を再開した初期の2週間は、以前の運動量の50パーセントから60パーセント程度に抑えることをお勧めします。
例えば、以前5キロメートル走っていた方は、まず2.5キロメートルから3キロメートルから始め、1週間ごとに500メートルずつ距離を伸ばしていくという具合です。
運動後のアフターケア
運動が終わったら、必ず「クールダウン」を行いましょう。

急に運動を止めるのではなく、5分から10分かけてゆっくりとウォーキングし、心拍数と筋肉の温度を徐々に下げます。
その後「静的ストレッチ」で筋肉をしっかり伸ばします。

アキレス腱のストレッチは、壁に手をついて片足を後ろに引き、かかとを地面につけたまま前の膝を曲げます。
後ろ側のふくらはぎが伸びているのを感じながら30秒間キープし、左右交互に行います。
「足首のマッサージ」も効果的です。

座った状態で、片方の足首を反対の太ももの上に乗せます。
両手の親指を使って、足首の周りを円を描くようにマッサージします。
特にアキレス腱の周辺と、外くるぶしと内くるぶしの周りを入念にほぐしましょう。
各部位を1分から2分ずつマッサージすることで、運動で緊張した筋肉と腱がほぐれ、疲労物質の除去が促進されます。
「アイシング」は、運動後の炎症の予防に有効です。

特に運動中に足首に違和感を感じた場合や、運動量が多かった日は、氷嚢や保冷剤をタオルで包んで足首に10分から15分当てます。
これにより、微細な炎症の拡大を防ぎ、翌日以降の痛みを予防できます。
ただし、直接氷を当てると凍傷のリスクがあるため、必ずタオルで包んでください。
入浴時のケアも重要です。

運動した日の夜は、38度から40度のぬるめのお湯にゆっくりと浸かり、全身の血流を改善します。
湯船の中で足首を回したり、ふくらはぎを軽くマッサージしたりすることで、筋肉の回復が促進されます。
入浴後は、足首用のサポーターや圧迫ソックスを着用すると、むくみを防ぎ、回復を早めることができます。
段階的な運動の進め方
春の運動再開は、焦らず段階的に進めることが最も重要です。
第1週目は週に2回から3回、1回20分から30分程度の軽いウォーキングから始めます。
第2週目は時間を30分から40分に延ばし、一部に軽いジョギングを取り入れます。
第3週目以降、徐々に運動の強度と時間を増やしていきます。
この段階的なアプローチにより、足首周りの筋肉と腱が徐々に負荷に適応し、怪我のリスクを最小限に抑えることができます。
まとめ
春先に運動を始めた時の足首の痛みは、冬の間の運動不足による筋力と柔軟性の低下、そして急に運動を始めたことが原因で起こります。
しかし今回お伝えした正しいウォーミングアップとアフターケア、そして段階的な運動の進め方を実践していただくことで、足首を守りながら安全に運動を楽しむことができるでしょう。
運動前の足首回しと動的ストレッチで筋肉を温めること、運動を始める前の50パーセントから60パーセント程度から始めること、運動後のクールダウンとストレッチを怠らないこと、そして1週間ごとに徐々に運動量を増やすこと。
これらの基本を守ることで、せっかく芽生えた運動への意欲を、足首の痛みで諦めることはなくなります。
ただし、これらの予防をしてもなお足首の痛みが続く場合、腫れや熱感を伴う場合、または以前に足首の捻挫をした経験がある場合は、靭帯の損傷や慢性的な不安定性が残っている可能性があります。
古い捻挫の影響で靭帯が緩んだままになっていたり、足首周りの筋力バランスが崩れていたり、体の歪みが足首に負担をかけていたりと、根本的な原因が隠れている場合もあるのです。
そのような場合は、痛みを我慢して運動を続けるのではなく、早めに専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。
当院では丁寧な問診と検査により、あなたの足首の痛みの根本の原因を探し出し、一人ひとりに合わせた治療プランをご提案しております。
足首の不安定性を改善する整体や、足首周りの筋肉のバランスを整える施術など、痛みの原因に応じた適切な治療を提供いたします。
春の爽やかな季節を、足首の痛みを気にすることなく、思い切り運動を楽しんでいただけるよう、私が全力でサポートいたします。
正しい準備とケアで、健康的で活動的な春をお過ごしください。
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(柔道整復師・鍼灸師 森洋人 監修)



