目次
肘のケガは早期発見、早期治療がベスト
投球やスポーツ活動による肘の障害は早期発見が最も重要です。多くの場合投球を中止することで改善しますが、子供の肘の損傷は発見が遅れると手術になることも。
お子さんの場合、肩よりも肘の障害の方が手術になるケースが多いので子供の肘の痛みには大人も十分注意していただければと思います。
野球肘は内側型、外側型、後方型と主に3つのタイプに分かれます。特に外側型には注意が必要で発見が遅れると手術になるケースも多いです。
内側型は筋肉に引っ張られるようにして、外側型は骨同士が圧迫されるような形で、伸展型は骨同士が衝突を起こしたり筋肉に引っ張られるようにして発症します。
少年期と成人期とでは損傷しやすい組織が異なり、少年期では裂離骨折や骨端線(こったんせん=骨の成長がおこなわれている線)離開など未熟な骨組織が障害され、成人期では筋損傷や、靭帯損傷が多くなります。
内側型 内側上顆裂離骨折(ないそくじょうかだんれつこっせつ)・内側上顆炎(ないそくじょうかえん)
内側上顆裂離骨折(ないそくじょうかだんれつこっせつ)
少年期の野球肘の代表的な疾患です。内側上顆(骨)には腕の筋肉がついています。少年期の骨は未熟で軟弱なため筋肉に引っ張られ骨が剥がれることがあります。これを裂離骨折といいます。裂離骨折は急性に発生したものか、慢性的に発症したかによって治療法が異なります。
急性発症した場合
急性に発症したものはいわゆる「骨折」ですので固定が必要です。中には手術が必要になるケースもあります。急性の場合は「この1球で痛めた」という原因がはっきりしています。急性発症はとても少なく、内側上顆裂離骨折全体の1割もありません。
慢性発症の場合
慢性の場合は徐々に痛みを自覚してきます。慢性の裂離骨折は「疲労骨折」のようなものですので固定や手術は不要です。約1ヶ月投球を禁止し、徐々に投球を再開します。
同じようなストレスで内側の靭帯を損傷することもあります。(内側側副靭帯損傷ないそくそくふくじんたいそんしょう)
内側上顆炎(ないそくじょうかえん)
内側上顆炎は成人と、成長期の子供では発生の原因が異なります。成長期の子供の場合は骨の成長が急速に進みます。骨の成長に比べ、筋肉の成長が遅いので筋肉と骨との付着部にかかるストレスが大きくなり痛みが出ます。筋肉の成長が追いつくにつれ痛みも消失してきますが、投球やスポーツ活動を繰り返すことで痛みが長引くこともあります。
成人の場合は内側上顆(骨)と屈筋群(筋肉)の付着部に繰り返しのストレスがかかることで炎症を起こしたり、腱が痛んだりします。
外側型 離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)
野球肘の中で最も注意が必要なのが離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)です。内側型は引っ張られるような損傷の仕方ですが、外側型は上腕骨小頭という骨が圧迫を受けるようにして損傷します。病状が進行してしまうと関節遊離体(関節ネズミ)という骨のかけらのようなものが関節の中に現れます。
外側型は初期では痛みを感じにくく、次第に肘の痛みを自覚します。進行すると肘が伸ばしにくくなり、関節遊離体(関節ネズミ)ができてしまうとロッキングといって肘が動かせなくなることもあります。
初期に発見できれば投球を禁止することで治ることもありますが、痛みを覚え病院を受診する選手の多くは自然に治ることは困難で手術になるケースが多いです。また野球肘の中でも将来、変形性肘関節症に進行しやすいといわれ野球肘における全体の割合は少ないものの早期発見・早期治療が大変重要です。
後方型 肘頭骨端損傷(ちゅうとうこったんそんしょう)・肘頭インピンジメント
肘頭骨端損傷(ちゅうとうこったんそんしょう)
投球時の上腕三頭筋の牽引力により、肘頭は常に引っ張られるようなストレスがかかっています。成長期の骨は骨端線(こったんせん)という骨が成長する場所があります。成長に伴いこの骨端線は癒合し成長を終えるのですが、ここに繰り返しのストレスがかかることで骨端線が開いてしまったり(= 骨端線離開こったんせんりかい)、癒合せずに成長を終えてしまうことがあります。(= 骨端線閉鎖不全こったんせんへいさふぜん)
単純に骨と筋肉の付着部で炎症を起こしてしまうこともあります。
肘頭インピンジメント
フォロースルーで肘が伸びきった際に、上腕骨の肘頭窩と尺骨の肘頭が衝突を繰り返し痛みを発生させるものです。
当院での治療
野球肘も野球肩と同様に、柔軟性や筋力を向上し投球フォームを改善することで「肘に負担のかからない状態」を目指すことが大切です。さらに野球肘の場合は前腕筋の柔軟性や筋力、手首の使い方なども重要です。
当院での治療は、痛みの軽い場合は投球を許可しながら治療することもありますが、痛みが強い場合は投球を禁止して組織の修復、炎症の消失を図りながら整体治療、ストレッチ、トレーニングを行い柔軟性や筋力、身体の使い方など体の機能を高めていきます。そしてフォームチェックをおこない問題のある投球動作に対しては改善を図ります。
もし投げられない期間があると不安に思われるかもしれませんが、当院では痛めた前の状態に戻すことを目標とはせず、身体の機能を高め投球動作の改善を行うことで「痛みの出にくい体作り」、そして「痛めた前の状態よりさらにパフォーマンスアップすること」を目指します。つまり痛みの改善だけでなく再発予防や球速やコントロール、ボールのキレを良くすることを目標としています。投げられなくつらい時期もあるかもしれませんがさらなるレベルアップと思い頑張っていただけたらと思います。
冒頭にも述べたように、少年期の肘の障害は発見が遅れると手術になるものもあります。子供は単なる痛みとしか認識していませんので、コーチや両親が注意を払う必要があります。肘の痛みは単なる疲労と考えずに必ず専門家に相談してください。
当院では治療から、投球動作の改善、予防法まで専門的な知識をもって指導させていただきますので、野球肩、野球肘でお悩みでしたら今すぐご相談ください。
(柔道整復師・鍼灸師 森洋人 監修)