椅子から立ち上がる時の股関節の痛みを防ぐ動作のコツ

 

はじめに

椅子から立ち上がろうとした瞬間、股関節に鋭い痛みが走る。

「イタッ」と思わず声が出て、一度動きを止めてしまう。

立ち上がるという何気ない日常動作が、いつの間にか恐怖を伴う動きになっている。そんな経験をされている方は決して少なくありません。

京都市北区で治療院を営む森洋人と申します。

治療家として15年間で8万人以上の患者さまを治療させていただく中で、椅子からの立ち上がり時に股関節の痛みを訴える方が近年増えていることを実感しています。

立ち上がるたびに股関節が痛い」「痛みが怖くて外食も躊躇してしまう」「デスクワークが辛くて仕事に集中できないといったお声を本当によくお聞きします。

実は椅子から立ち上がる動作は、股関節に大きな負担がかかる動きの一つです。

体重のかかり方、重心の移動、筋肉の使い方など、複数の要素が複雑に絡み合っており、間違った動作を続けることで股関節への負担は蓄積していきます。

しかし、正しい立ち上がり方を身につけることで、痛みを防ぎながら快適に日常生活を送ることができるのです。

何気なく行っている動作だからこそ、正しい方法を知ることが重要です。

今回は股関節に痛みが出るメカニズムを理解した上で、痛みを防ぐ具体的な立ち上がり方のコツを、治療の現場で培った知識をもとに詳しくお伝えいたします。

 

なぜ立ち上がる瞬間に股関節に痛みが走るのか?

椅子から立ち上がる瞬間に股関節が痛む原因を理解することが、効果的な予防の第一歩となります。

この痛みは偶然ではなく、股関節の構造と動作のメカニズムに深く関係しています。

まず股関節の構造について説明します。

股関節は、骨盤の寛骨臼(お椀のような形をしたくぼみ)に、大腿骨頭(太ももの骨の丸い部分)はまり込んだ球関節です。

この関節は体重を支えながら、前後左右、回旋など多方向への動きを可能にする非常に重要な関節です。

健康な状態では、関節軟骨がクッションの役割を果たし、滑液が潤滑油のように働いて、スムーズな動きを実現しています。

椅子から立ち上がる動作では、股関節に体重の何倍もの力がかかります。

座った状態から立ち上がる際、股関節は深く曲がった状態(屈曲位)から伸びた状態(伸展位)へと移行します。

この移行の瞬間、股関節には体重の約3倍から4倍の負荷がかかると言われています。

体重60キログラムの方なら、180キログラムから240キログラムもの力が股関節にかかる計算になります。

この負荷が、傷んだ関節や弱った筋肉に集中することで痛みが発生するのです。

股関節周囲の筋力低下も大きな要因です。

股関節を安定させるためには、腸腰筋(腰から太ももの付け根につながる筋肉)大殿筋(お尻の筋肉)中殿筋(お尻の横の筋肉)大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)など、多くの筋肉が協調して働く必要があります。

これらの筋肉が弱くなると、立ち上がる際に股関節を適切に支えられず、関節面に過度な圧力や摩擦が生じます。

特に中殿筋(お尻の横の筋肉)の弱さは、立ち上がり時の骨盤の安定性を損ない、股関節への負担を増大させます。

座っている時間が長いことによる影響も見逃せません

長時間座り続けると、腸腰筋(腰から太ももの付け根につながる筋肉)ハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)が短縮し、股関節の柔軟性が低下します。

筋肉が硬くなった状態で立ち上がると、股関節は本来のスムーズな動きができず、特定の部分に負荷が集中してしまいます。

デスクワークで1日8時間以上座っている方は、この影響を特に受けやすいのです。

立ち上がり動作での重心移動の問題もあります

正しい立ち上がり方では、まず上半身を前に傾けて重心を足の上に移動させてから立ち上がります。

しかし、多くの方は上半身を前に傾けずに、股関節と膝の力だけで立ち上がろうとします。

この動作では股関節への負担が極端に大きくなり、特に股関節の前面にある腸腰筋(腰から太ももの付け根につながる筋肉)関節包(関節を包む袋状の組織)過度なストレスがかかります。

 

股関節に負担をかけない正しい立ち上がり方の基本動作とは

股関節への負担を最小限に抑える正しい立ち上がり方を身につけることで、痛みを予防し、快適に日常生活を送ることができます。

私が患者さまにお伝えしている具体的な方法をステップごとにご紹介いたします。

 

ステップ1:足の位置を整える

立ち上がる前に、まず足の位置を正しく設定することが重要です。

両足は肩幅程度に開き、つま先はやや外側に向けます。

足を椅子の座面の真下よりも少し後ろに引いておくことがポイントです。

膝が90度より少し鋭角になる程度まで足を引くと、立ち上がる際に重心移動がスムーズになり、股関節への負担が軽減されます。

足を前に出したまま立ち上がろうとすると、股関節と膝に過度な負荷がかかってしまいます。

 

ステップ2:上半身を前に傾ける

これが最も重要なポイントです。

立ち上がる前に、上半身をゆっくりと前に傾けます。

お辞儀をするようにというイメージで、背筋を伸ばしたまま、股関節から折り曲げるように上半身を前方に倒します。目安としては、鼻が膝の真上あたりまで来る程度です。

この動作により、重心が足の上に移動し、立ち上がる際に股関節にかかる負担が大幅に軽減されます。

多くの方が見落としているのが、この重心を前に移動させるという準備動作なのです。

 

ステップ3:手の位置と使い方

両手を太ももの上、または椅子の肘掛けに置きます。

手で太ももを軽く押すことで、立ち上がる力を補助できます。

椅子に肘掛けがある場合は、両手で肘掛けを押しながら立ち上がると、股関節への負担をさらに軽減できます。

ただし、手の力だけに頼りすぎると、長期的には股関節周りの筋力が低下してしまうため、あくまでも補助として使うことが大切です。

 

ステップ4:ゆっくりと立ち上がる

準備ができたら、息を吐きながらゆっくりと立ち上がります。

急いで立ち上がると、股関節に瞬間的に大きな負荷がかかります。

3秒から5秒かけてゆっくりと立ち上がることで、負荷を分散させることができます。

立ち上がる際は、お尻の筋肉である大殿筋(お尻の筋肉)を意識的に使うことがポイントです。

「お尻を締めながら立ち上がる」というイメージを持つと、股関節への負担が減り、正しい筋肉の使い方ができます。

 

ステップ5:完全に立ち上がる

立ち上がった後、膝を完全に伸ばし、姿勢をまっすぐに整えます。

この時、骨盤を少し前に押し出すようにすると、股関節が伸展位(伸びた状態)に入り、安定した立位姿勢になります。

立ち上がった直後に歩き出すのではなく、1秒から2秒、しっかりと立った状態で姿勢を整えてから動き始めることで、股関節への急激な負荷変化を避けることができます。

椅子の高さの重要性

正しい立ち上がり方を実践するためには、椅子の高さも重要です。

理想的な椅子の高さは、座った時に膝が90度程度になる高さです。

椅子が低すぎると、立ち上がる際に股関節が深く曲がった状態から始めなければならず、負担が大きくなります。

自宅やオフィスで使う椅子の高さを調整できる場合は、適切な高さに設定しましょう。

調整できない場合は、クッションなどを使って座面の高さを上げてもOKです。

避けるべき立ち上がり方

逆に、股関節に負担をかける立ち上がり方についてもご説明しておきます。

上半身を前に傾けずに真っすぐのまま立ち上がる勢いをつけて急に立ち上がる片足に体重を偏らせて立ち上がる、といった動作は股関節への負担を大きくします

また、椅子の端に浅く座った状態から立ち上がるのも、バランスが悪く股関節に無理な力がかかるため避けるようにしましょう。

 

日常生活で実践できる股関節に優しい動作を習慣化するコツ

正しい立ち上がり方を日常生活の中で習慣化するためには、意識的な練習と環境の整備が必要です。

私が患者さまにお伝えしている実践的な方法をご紹介いたします。

練習の方法

まずは自宅で、鏡の前で正しい立ち上がり方を練習することをお勧めします。

横から見た姿勢を確認しながら、上半身の前傾足の位置立ち上がる速度などをチェックします。

最初は1日10回程度、朝昼晩と分けて練習しましょう。

2週間から3週間続けると、正しい動作が体に馴染んできます。

スマートフォンで動画を撮影し、自分の動作を客観的に確認することも効果的です。

環境の整備

日常生活で使う椅子の環境を見直すことも重要です。

デスクチェアは座面の高さを調整し、膝が90度程度になるように設定します。

ダイニングチェアが低すぎる場合は、クッションを敷いて高さを調整しましょう。

また、肘掛けのある椅子を選ぶことで、立ち上がる際の補助ができます。

トイレの便座が低い場合は、補高便座の使用も検討してください。

筋力トレーニング

股関節周りの筋力を強化することで、立ち上がり動作がより楽になります。

スクワットは最も効果的なトレーニングです。

椅子の前に立ち、ゆっくりと腰を下ろして椅子に軽く触れたら、またゆっくりと立ち上がります。

これを10回、1日2セット行いましょう。

ヒップリフト効果的です。

仰向けに寝て膝を立て、お尻を持ち上げます。

お尻の筋肉である大殿筋(お尻の筋肉)を意識しながら、10秒間キープを10回繰り返します。

柔軟性の維持

股関節の柔軟性を保つストレッチも欠かせません。

股関節の屈曲ストレッチは、仰向けに寝て片膝を両手で抱え、胸に引き寄せます。

30秒間キープし、左右交互に行います。

腸腰筋のストレッチは、片膝立ちの姿勢から、前の膝を曲げながら腰を前に押し出します。

後ろ側の股関節の付け根が伸びているのを感じながら30秒間キープします。

これらのストレッチを1日2回、朝と夜に行うことで、股関節の柔軟性が維持されます。

段階的な難易度調整

股関節の状態に応じて、立ち上がる動作の難易度を調整することも大切です。

痛みが強い時期は、高めの椅子を使い、手の補助を十分に使って立ち上がります。

痛みが軽減してきたら、徐々に椅子の高さを下げたり、手の補助を減らしたりして、筋力を強化していきます。

ただし、痛みが増す場合は無理をせず、前の段階に戻ることが重要です。

記録をつける

立ち上がり時の痛みの程度を記録することで、改善の度合いを客観的に把握できます。

1日の終わりに、痛みの強さ(10段階)」「何回立ち上がったか」「正しい動作を意識できた回数などを簡単にメモします。

2週間から4週間の記録を見返すことで、改善の傾向が分かり、モチベーションの維持につながります。

周囲への説明

職場や家族に、自分が股関節の痛みに配慮した動作を心がけていることを伝えることも有効です。

ゆっくり立ち上がる必要があると周囲が理解してくれれば、焦らずに正しい動作を実践できます。

また、会議中など人前で立ち上がる際も、堂々と正しい方法を実践できるようになります。

 

まとめ

椅子から立ち上がる時の股関節の痛みは、股関節への過度な負荷、筋力低下、柔軟性の欠如が原因で起こります。

しかし今回お伝えした正しい立ち上がり方と日常での習慣化のコツを実践していただくことで、痛みを予防しながら快適に生活することができるでしょう。

上半身を前に傾けて重心を移動させること足の位置を適切に設定することゆっくりと立ち上がること、そして股関節周りの筋力と柔軟性を維持すること

これらの基本を守ることで、立ち上がり動作での股関節への負担を大幅に軽減できます。

特に上半身を前に傾ける動作は、多くの方が見落としている重要なポイントです。

ただし、これらの対策を実践してもなお痛みが続く場合、痛みが日常生活に支障をきたすほど強い場合、または痛みが徐々に悪化している場合は、変形性股関節症などの疾患の可能性もあります。

股関節の構造的な問題、筋力のアンバランス、体の歪みなど、根本的な原因が隠れている場合もあるのです。

そのような場合は、痛みを我慢し続けるのではなく、早めに専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

当院では丁寧な問診と検査により、あなたの股関節痛の根本原因を探し出し、一人ひとりに合わせた治療プランをご提案しております。

体の歪みを整える整体や、股関節周りの筋肉を調整する施術など、痛みの原因に応じた適切な治療を提供いたします。

きれいに立ち上がる動作を恐れることなく、快適に日常生活を送っていただけるよう、全力でサポートさせていただきます。

正しい動作を習慣化し、痛みのない毎日を取り戻してください。

股関節の痛みの治療

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(柔道整復師・鍼灸師 森洋人 監修)

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