はじめに
朝晩の冷え込みが厳しくなるこの季節、重ね着をして外出したものの、帰宅する頃には肩がずっしりと重く、首筋から肩甲骨にかけて痛みが走る。
そんな経験をされたことはありませんか。
「ただ服を着ているだけなのに、なぜこんなに肩が痛くなるのだろう」と不思議に思われる方も多いでしょう。
京都市北区で治療院を営む森洋人と申します。
治療家として15年間で8万人以上の患者さまを治療させていただく中で、秋から冬にかけて肩の痛みを訴える方が増えることに気づきました。
詳しくお話を伺うと、寒さ対策で重ね着を始めた時期と肩の痛みが出始めた時期が重なっているケースが非常に多いのです。
「厚手のコートを着るようになってから肩がこる」「重ね着をすると動きにくくて肩が張る」といったお声を本当によくお聞きします。
実は重ね着と肩の痛みには、多くの方が気づいていない密接な関係があります。
服の重さそのものだけでなく、重ね着による姿勢の変化、血行の悪化、動きの制限など、複数の要因が絡み合って肩の痛みを引き起こしているのです。
寒い季節を快適に過ごすために必要な重ね着が、実は体に負担をかけているとしたら、それは見過ごせない問題です。
今回は重ね着がもたらす体への影響と、肩の痛みを予防するための具体的な工夫について、治療の現場で培った知識をもとにお伝えいたします。
重ね着が姿勢と血行に及ぼす影響を詳しく解説

重ね着が姿勢に与える影響は、多くの方が想像する以上に大きなものです。
まず理解していただきたいのは、服の重さが肩や首に直接的な負担をかけているという事実です。
秋冬の一般的な重ね着では、インナー、シャツ、セーター、ジャケット、コートを合わせると、上半身だけで2キログラムから3キログラムの重さになることも珍しくありません。
この重量が首や肩の筋肉にどのような影響を与えるのでしょうか。
人間の頭部は約5キログラムの重さがあり、それを首や肩の筋肉が支えています。
そこにさらに2キログラムから3キログラムの服の重さが加わると、僧帽筋上部線維(首の付け根から肩にかけての筋肉)や肩甲挙筋(首の横から肩甲骨につながる筋肉)への負担が大幅に増加します。
特にコートの重さは肩に集中してかかるため、長時間着用していると筋肉が疲労し、痛みやこりを引き起こすのです。
重ね着による姿勢の変化も見逃せません。

厚手の服を何枚も重ねると、体の動きが制限され、無意識のうちに不自然な姿勢をとってしまいます。
例えば、腕を動かしにくくなるため、肩をすくめたような姿勢になりがちです。
この姿勢では肩が常に緊張状態となり、筋肉の血流が悪化します。
また、厚い服によって猫背になりやすく、頭部が前に突き出た姿勢になることで、首から肩にかけての筋肉にさらなる負担がかかります。
血行への影響についても詳しく説明します。

重ね着をすると、特に首周りや肩周りの締め付けによって血管が圧迫され、血液の流れが悪くなります。
血行不良が起こると、筋肉に十分な酸素や栄養が届かず、老廃物も溜まりやすくなります。
これが筋肉の疲労を早め、痛みやこりの原因となるのです。
特にタートルネックやマフラー、厚手のコートの襟などによる首周りの締め付けは、頸部の血管を圧迫し、脳への血流にも影響を与えることがあります。
さらに重ね着による体温調節の難しさも、姿勢と血行に間接的な影響を及ぼします。

暖房の効いた室内では汗をかき、外に出ると急激に冷えるという温度変化の繰り返しは、自律神経のバランスを乱します。
自律神経が乱れると筋肉の緊張が高まり、血管の収縮と拡張のコントロールがうまくいかなくなり、結果として肩こりや痛みが悪化しやすくなるのです。
洋服の重さと圧迫感が体に与える隠れたストレス

私たちが日常的に感じている服の重さや圧迫感は、想像以上に体にストレスを与えています。
このストレスは「隠れたストレス」と呼ばれ、気づかないうちに体に蓄積し、様々な不調を引き起こす原因となります。
まず衣服による物理的な圧迫について考えてみましょう。
きつい襟や締め付けの強い下着、厚手のベルトなどは、体の特定の部位を継続的に圧迫します。
この圧迫が長時間続くと、その部位の血流が悪化し、周辺の筋肉や神経にも影響が及びます。
特に鎖骨周辺の圧迫は要注意です。
この部分には腕への血流や神経が通っているため、圧迫されると肩から腕にかけてのだるさやしびれを引き起こすことがあります。
服の素材による影響も見逃せません。

化学繊維の多い服は通気性が悪く、汗をかいても蒸発しにくいため、肌が湿った状態が続きます。
これにより体温調節がうまくいかず、筋肉が冷えて硬くなったり、逆に蒸れて不快感が増したりします。
天然素材と化学繊維を適切に組み合わせることが、快適さと健康を両立させる鍵となります。
重ね着による動きの制限は、予想以上に体への負担となります。
腕を上げる動作、体をひねる動作、前かがみになる動作など、日常の何気ない動きが制限されると、体は別の筋肉を使って代償しようとします。
例えば、肩が動かしにくい場合、首の筋肉を過剰に使って頭を動かそうとするため、首の筋肉に余計な負担がかかります。
このような代償動作を繰り返すことで、本来使わなくてもよい筋肉が疲労し、痛みを生じさせるのです。
心理的なストレスも身体に影響を与えます。

服が重い、窮屈だと感じることは、無意識のうちに心理的なストレスとなります。
このストレスは自律神経を介して筋肉の緊張を高め、血圧を上昇させることもあります。
特に仕事中や外出中など、すぐに服を脱げない状況では、このストレスがより強く感じられ、肩や首の筋肉の緊張につながります。
また、重い服を着続けることで、体は常に余分なエネルギーを消費しています。
この慢性的なエネルギー消費は全身の疲労感を増大させ、筋肉の回復力を低下させます。
結果として、ちょっとした負担でも肩こりや痛みが生じやすい状態になってしまうのです。
肩の痛みを予防するための服装と体の使い方の工夫

重ね着による肩の痛みを予防するためには、服装の選び方と日常の体の使い方を見直すことが重要です。
私が患者さまにお伝えしている具体的な工夫をご紹介いたします。
まず服の選び方について詳しく説明します。
重さを分散させることが最も重要なポイントです。

重いコートを着る場合は、肩だけでなく腰でもベルトやひもで支えられるデザインのものを選ぶことで、肩への負担を軽減できます。
また、軽量で保温性の高い素材を選ぶことも大切です。
最近の機能性素材は薄くても保温効果が高いため、重ね着の枚数を減らすことができます。
ダウンジャケットやフリース素材などは、軽さと暖かさを両立できる優れた選択肢です。
首周りの締め付けを避けることも重要です。

タートルネックを着る場合は、首が締め付けられないゆとりのあるサイズを選びましょう。
マフラーの巻き方にも注意が必要です。
首に何重にも巻きつけるのではなく、ゆったりと一周させる程度にとどめることで、血流を妨げずに保温効果を得られます。
室内での過ごし方も工夫が必要です。

暖房の効いた室内では、上着を脱いで体温調節をしやすくしましょう。
「ちょっとの時間だから」と着たままでいると、体が温まりすぎて汗をかき、外に出たときに急激に冷えて筋肉が硬くなります。
こまめに脱ぎ着することで、体温を適切に保つことができます。
日常の体の使い方についてもお伝えします。

重ね着をしている時こそ、意識的に姿勢を正すことが大切です。
背筋を伸ばし、肩を後ろに引いて胸を開く姿勢を心がけてください。
30分に一度は肩を大きく回したり、首をゆっくりと左右に動かしたりして、筋肉の緊張をリセットしましょう。
簡単にできる肩こり予防のストレッチもご紹介します。

両手を後ろで組み、胸を開きながら肩甲骨を寄せる動作を5秒間キープし、これを3回繰り返します。
このストレッチは服を着たままでもできますので、気づいた時に行う習慣をつけてください。
また、首を左右にゆっくりと倒すストレッチも効果的です。
それぞれの方向に15秒ずつ、首の横の筋肉が伸びているのを感じながら行いましょう。
入浴時のケアも重要です。

重ね着で疲れた肩や首を、ぬるめのお湯でゆっくりと温めることで、筋肉の緊張がほぐれ、血行が促進されます。
お風呂の中で肩を回したり、首を動かしたりすることで、さらに効果が高まります。
入浴後は、肩や首に軽くマッサージクリームを塗り、優しくもみほぐすことで、翌日の肩こりを予防できます。
まとめ
重ね着による肩の痛みは、服の重さ、姿勢の変化、血行の悪化という複数の要因が絡み合って起こるものです。
しかし今回お伝えした知識と工夫を実践していただくことで、寒い季節を快適に、そして痛みなく過ごすことができるでしょう。
軽量で保温性の高い素材を選ぶこと、首周りの締め付けを避けること、室内ではこまめに脱ぎ着すること、そして意識的に姿勢を正し定期的にストレッチを行うこと。
これらの習慣を日常に取り入れていただくことで、重ね着による肩への負担を大幅に軽減できます。
ただし、これらの対策を実践してもなお肩の痛みが続く場合や、すでに慢性的な肩こりでお悩みの場合は、根本的な原因が他にある可能性があります。
体の歪みや筋肉の深部の緊張、過去の怪我の影響など、様々な要因が複合的に関わっている場合があるのです。
そのような場合は、症状を我慢せず早めに専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。
当院では丁寧な問診と検査により、あなたの肩の痛みの根本原因を探し出し、一人ひとりに合わせた治療プランをご提案しております。
寒い季節を痛みなく快適に過ごしていただけるよう、私が全力でサポートいたします。
重ね着が必要な季節だからこそ、体のケアを怠らず、健康な毎日をお過ごしください。
ご予約はこちら
(柔道整復師・鍼灸師 森洋人 監修)



