秋のマラソン練習で起こりやすい股関節痛の予防法

 

 

はじめに

秋の爽やかな風を感じながら、気持ちよく走り始めたはずなのに、数キロも走らないうちに股関節に違和感が。

「今日は調子が悪いのかな」と思いながら走り続けると、次第に鋭い痛みへと変わっていく。

そんな経験をされたランナーの方は少なくないのではないでしょうか。

私は京都市北区で、治療家として15年間で8万人以上の患者さまを治療させていただく中で、秋になると股関節の痛みを訴えるランナーの方が増えることに気づきました。

「夏は問題なく走れていたのに、秋になって急に股関節が痛くなった」「マラソン大会に向けて練習を増やしたら、股関節に痛みが出るようになった」といったお声を本当によくお聞きします。

実は私自身も高校時代に野球で肩を痛めた経験があり、運動中の痛みがどれほど選手を苦しめるか、身をもって知っています。

秋のマラソン練習で股関節痛が起こりやすいのには、明確な理由があります。

気温の変化による体の硬さ大会に向けた練習量の増加、そして知らず知らずのうちに乱れているフォームなど、複数の要因が重なって股関節に負担をかけているのです。

せっかく目標に向かって頑張っている時に、痛みで走れなくなってしまうのは本当に辛いことです。

今回は秋のマラソン練習での股関節痛を予防するための具体的な方法を、治療の現場で培った知識をもとにお伝えいたします。

 

気温が下がる秋に股関節痛が起こりやすくなる理由

秋になると股関節痛が増える最大の理由は、気温の低下による筋肉や関節の硬さにあります。

夏場は気温が高く、体も自然と温まった状態で走り始めることができますが、秋は朝晩の気温が10度から15度程度まで下がることも珍しくありません。

この温度では筋肉の温度も十分に上がらず、硬い状態のまま走り始めてしまうことになります。

筋肉の温度と柔軟性には密接な関係があります。

筋肉の温度が1度下がると、筋肉の柔軟性は約10パーセント低下するといわれています。

股関節の周りには、腸腰筋(腰から太ももの付け根につながる筋肉)大殿筋(お尻の筋肉)中殿筋(お尻の横の筋肉)大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)ハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)など、多くの大きな筋肉が集まっています。

これらの筋肉が硬い状態で走ると、股関節の動きが制限され、関節面に過度な摩擦や圧力がかかってしまうのです。

秋特有の気温変化も見逃せません

日中は20度を超える日もあれば、朝晩は10度以下になることもあり、一日の寒暖差が10度以上になることも珍しくありません。

この気温差は自律神経のバランスを乱し、筋肉の緊張を高めます。

自律神経が乱れると血管の収縮と拡張のコントロールがうまくいかず、筋肉への血流が不安定になります。

血流が悪くなると、筋肉に十分な酸素や栄養が届かず、疲労物質も溜まりやすくなり、股関節の周りの筋肉が硬くなりやすいのです。

さらに秋は多くのマラソン大会が開催される季節です。

大会に向けて練習量を増やすランナーが多く、それまで週に2回、1回5キロだった練習を、週に4回、1回10キロに増やすといった急激な変化が起こります。

気温が下がって体が硬くなっている状態で、急に練習量を増やすことは、股関節への負担を何倍にも増大させることになります。

体が新しい負荷に適応する前に、次のトレーニングを重ねてしまうため、疲労が蓄積し痛みが発生しやすくなるのです。

夏から秋への季節の変わり目は、知らず知らずのうちに水分摂取量が減る時期でもあります。

夏は意識的に水分を取りますが、秋になると喉の渇きを感じにくくなり、水分摂取が不足しがちです。

体内の水分が不足すると、血液の粘度が高くなり、筋肉への酸素供給が悪化します。

また、関節液の質も低下し、股関節の滑らかな動きが損なわれることで、関節面への負担が増加するのです。

 

フォームと体幹の乱れが股関節に与える影響とは

マラソン練習での股関節痛の多くは、走行フォームの乱れと体幹の弱さに起因しています。

多くのランナーが気づいていないのですが、疲労が蓄積するにつれて、少しずつフォームが崩れ、股関節への負担が増大していくのです。

正しい走行フォームでは、股関節を軸として脚全体がスムーズに動きます。

しかし、疲労によって体幹の筋肉が弱くなると、骨盤の位置が不安定になり、股関節の動きに無理が生じます。

特に問題となるのは「骨盤の前傾」「骨盤の後傾」です。

骨盤が前に傾きすぎると、腸腰筋(腰から太ももの付け根につながる筋肉)が過度に緊張し、股関節の前面に痛みが出やすくなります。

逆に骨盤が後ろに傾くと、大殿筋(お尻の筋肉)ハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)に過度な負担がかかり、股関節の後面や外側に痛みが生じます。

体幹の安定性が失われると、着地時の衝撃を十分に吸収できなくなります。

通常、着地の衝撃は足首股関節、そして体幹へと段階的に分散されていきます。

しかし体幹が弱いと、この衝撃吸収のメカニズムがうまく働かず、股関節に過度な負荷が集中してしまうのです。

ランニング中、片足での着地時には体重の2倍から3倍の力が股関節にかかります。

体重60キログラムの方なら、120キログラムから180キログラムもの力が、一歩ごとに股関節にかかる計算になります。

足の着き方も股関節への影響が大きいポイントです。

オーバーストライドと呼ばれる、歩幅が広すぎる走り方をすると、着地時に膝が伸びきった状態で地面に足がつきます。

この状態では衝撃を吸収する関節の動きが制限され、その負荷が股関節に直接伝わってしまいます。

また、左右の足の着き方に差がある場合も問題です。

片方の足だけ内側に倒れ込むような着地をしていると、その側の股関節に過度な回旋ストレスがかかり、痛みの原因となります。

体幹の筋力不足は、走行中の体の揺れにもつながります。

体が左右に大きく揺れながら走ると、股関節は体を安定させるために余計な力を使わなければなりません。

特に中殿筋(お尻の横の筋肉)は、片足立ちの際に骨盤を水平に保つ重要な役割を果たしています

この筋肉が弱いと、着地側と反対側の骨盤が下がるトレンデレンブルグ徴候という状態になり、股関節への負担が大幅に増加します。

さらに疲労による走行フォームの変化も見逃せません。

走り始めは正しいフォームを保てていても、10キロ、15キロと距離が伸びるにつれて、徐々に姿勢が崩れてきます。

前かがみになったり、腰が落ちたりすることで、股関節の角度が変わり、特定の筋肉だけに負担が集中するようになるのです。

 

痛みが出る前に行いたい簡単セルフケアの実践法

股関節痛を予防するためには、日々のセルフケアが何より重要です。

私が患者さまにお伝えしている方法は、自宅で簡単にできるものばかりですので、ぜひ習慣化していただきたいと思います。

走る前の準備運動は、秋の気温では特に入念に行う必要があります。

 

まず「動的ストレッチ」から始めましょう。

その場で膝を高く上げる「ももあげ運動」を20回、かかとをお尻に近づける「かかとあげ運動」を20回行います。

これにより股関節の周りの筋肉の温度を上げることができます。

 

次に「レッグスイング」を行います。

壁や柱に手をついて体を支え、片足を前後に大きく振ります。

前後各10回ずつ、左右の足で行いましょう。

さらに横方向にも振ることで、股関節のあらゆる方向の動きを滑らかにします。

 

体幹トレーニングも欠かせません。

「プランク」は体幹の安定性を高める基本的なエクササイズです。

うつ伏せの状態から肘とつま先で体を支え、頭から足までが一直線になるように保ちます。

30秒を3セット行いましょう。

慣れてきたら、片足を浮かせる「シングルレッグプランク」に挑戦してください。

さらに「サイドプランク」中殿筋(お尻の横の筋肉)を強化します。

横向きに寝て、肘と足の外側で体を支え、体を一直線に保ちます。

左右各30秒を3セット行います。

 

股関節の周りの柔軟性を高めるストレッチも重要です。

「腸腰筋のストレッチ」は、片膝立ちの姿勢から、前の膝を曲げながら腰を前に押し出します。

後ろ側の股関節の付け根から太ももの前面が伸びているのを感じながら30秒間キープし、左右交互に行います。

「大殿筋のストレッチ」は、仰向けに寝て片膝を両手で抱え、胸に引き寄せます。

お尻の筋肉が伸びているのを感じながら30秒間キープします。

 

走った後のケアも忘れずに行いましょう。

走り終えたら5分から10分のクールダウンジョギングまたはウォーキングを行い、筋肉の温度を徐々に下げます。

その後、「静的ストレッチ」でしっかりと筋肉を伸ばします。

走った直後は筋肉が温まっているため、ストレッチの効果が高まります。

各ストレッチを30秒以上、痛みのない範囲でゆっくりと行いましょう。

自宅でのセルフマッサージも効果的です。

テニスボールマッサージボールを使って、お尻の筋肉や太ももの筋肉をほぐします。

床にボールを置いて体重をかけながら転がすことで、深部の筋肉まで刺激することができます。

特に中殿筋(お尻の横の筋肉)腸腰筋(腰から太ももの付け根につながる筋肉)部分は入念に行いましょう。

 

入浴時のケアも重要です。

ぬるめのお湯にゆっくりと浸かることで、股関節の周りの血流が促進され、疲労回復が早まります。

湯船の中で股関節をゆっくりと動かしたり、軽くマッサージしたりすることで、さらに効果が高まります。

練習量の管理も予防の重要なポイントです。

練習量は前週の10パーセント増以内に抑えることが推奨されています。

急激に距離や頻度を増やすと、体が適応する前に負担が蓄積してしまいます。

また、週に1回から2回は完全休養日を設け、体を回復させる時間を確保しましょう。

 

まとめ

秋のマラソン練習での股関節痛は、気温の低下練習量の増加フォームの乱れという複数の要因が重なって起こります。

しかし今回お伝えしたセルフケアと予防法を日々の習慣として取り入れていただくことで、痛みを未然に防ぎながら、目標に向かって走り続けることができるでしょう。

走る前の動的ストレッチで筋肉の温度を上げること体幹トレーニングで骨盤を安定させること走った後のケアを怠らないこと、そして練習量を段階的に増やすこと

これらの基本を守ることが、股関節を守りながら記録を伸ばしていく秘訣です。

ただし、これらの予防策を実践してもなお股関節の痛みが続く場合や、痛みが日常生活にまで影響している場合は、すでに炎症や損傷が起きている可能性があります。

体の歪みや筋力のアンバランス、過去の怪我の影響など、根本的な原因が隠れている場合もあるのです。

そのような場合は、痛みを我慢して走り続けるのではなく、早めに専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

当院では丁寧な問診と検査により、あなたの股関節痛の根本原因を探し出し、一人ひとりに合わせた治療プランをご提案しております。

大切な大会に向けて、最高のコンディションで臨んでいただけるよう、私が全力でサポートいたします。

秋の爽やかな季節を、痛みなく思い切り走る喜びを存分に味わってください。

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(柔道整復師・鍼灸師 森洋人 監修)

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